『海賊と資本主義』ー海賊が資本主義に与えた影響とは

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この本を手に取ったのは、自分自身「新しい次なる経済の在り方とは何か」というテーマを持っていて、その中で「資本主義の始まりには海賊という存在がどのような影響を与えたのか」、という点が知りたかったからである。とは言っても実際に何を持ってある段階から資本主義の社会ですよ!とは言える事はできないと思うので、明確なタイミングはすぐにはわからないと考えている。

現段階の仮説としては、海賊という存在が少なからず資本主義を助長したと。資源、奴隷などの貿易を活発的に行うようになり資本家をより富める存在にしたのではと考えている。

→本書を見る限りでは、あながち仮説の筋はいいという結論に至った。

 

資本主義とは

資本主義といえば、トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』「資本主義下の社会では格差は常に拡大し続ける」、「1%のお金持ちがより富を拡大し続ける」ということを示したことで有名だ。ここにおける本質的な問題は「格差の”固定化”」という点にある。これに対して、キャピタルゲイン、配当所得に対する課税が有用だという話もどこかで目にしたが、確かに”固定化”を改善するには強制的に課税にするか、ビルゲイツ・ザッカーバーグなどの著名人が行う自主的な慈善活動を、更に他のお金持ちに対して促進する社会の風潮を作り出すことなのだろうか。

またそうした流れに逆らって、パナマ文書の公開という出来事は起きた(リストにアメリカ人がいないことから、他国を潰すために意図的にアメリカが行ったという話もあるが)。まさに反権力派の本書でいう”海賊”という存在だ。

マルクスによれば、資本主義は「資本(capital)が無限に自己増殖する価値運動である」と述べている。ここでもピケティ同様に重要なのはこの価値運動が果てしなく続くことだという点である。この問題を解決するためには資本主義と非資本主義の適切なバランスの組み合わせが必要で、つまり「増殖しない経済圏」を作る必要がある。

マルクスは「物を生産して販売する」”産業資本”の形態を資本形態の本質としてみなしており、資本が無限に増殖する要因となっているものは「労働力」という商品だと述べている。労働力によって多くの剰余価値を生み出すことができ、その剰余分を資本家は受け取り、更に富む。

つまり、何が言いたいかというと海賊の存在によって、奴隷という存在の「労働力」商品が生まれ、労働力市場ができ、富あるものは更に富を持っていったのではないかということである。この点、本書では資本主義に対してあまり言及されていないので答えは分からないままである。

 

海賊とは

資本主義が技術の向上によって新たな領域(大洋、空、電波、遺伝子分野など)に進出する時、海賊は新たな形で登場してくるのだ

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海賊とはどういう存在か、上記の言葉に凝縮されているだろう。資本家はそれまで所有されていない場所や資源、物を見つけては殺到し、自身のテリトリーとしてきた。その中で必ず現れるのが脱テリトリー化への動き。その動きの中心にいるのが”海賊”という存在であると。ただ、その海賊も16世紀には「海の海賊」、以降は「ネット上の海賊」、「遺伝子分野の海賊」、「宇宙空間の海賊」と時代とともに姿形を変えているという。よく違法アップロードされたコンテンツは海賊版と言われるが、それも権力、テリトリー化された領域に対する海賊たちの抗いの表れであるのだ。

別の視点から見れば、海賊は常に少数派である。歴史は勝者が作るように多数派は国を作り、ルールを作り、はみ出すものを違反者として取り締まる。そのように国家のテリトリーではなく、非テリトリーにいる存在の海賊は歴史の弱者でもある。海賊という存在が許されるかどうかの見方は当事者の立場によって変わるのだ。

 

本書では資本主義をマルクスなどと別の言葉で言い表している。

資本主義とは、単位を統一し、社会を均一化し、労働力や資本の流通、交流を促すこと…….つまり、資本主義という概念を考えていくと、その出現には、脱テリトリー化規格の統一化という二つの動きが不可欠だ……..資本主義というのは実に複雑で漠然とした現象なので、いつから存在していたのか、正確に突き詰めることは難しい。それでも、インドとアメリカ大陸の発見、新大陸への市場拡大が、グローバリゼーションの第一歩となったことは確かだ。 P38-39

また資本主義の始まりについて、1492年のアメリカ大陸発見から、近代的主権国家体制の存在が認知され、1648年にウェストファリア条約が締結された頃までに誕生したのではと述べている。このアメリカ大陸発見っていうのも当事者(アメリカインディアン)からすればイヤイヤ俺たち住んでるし発見っておかしいよと思っていたはずで、常に強者が歴史を塗り替えてきたんだと改めて実感する。

 

海賊と資本主義の関係って結局なに

資本主義にとって海賊という存在は”必要悪”なのだ。

全体が管理され均一化された社会でイノベーターが生まれにくいように、働かないアリが種の生存のためには必要なように、パレートの法則が示すように、コンピュータのバグが人間らしさを表すように、すべてバランスのもとに成り立っている。

資本主義社会が成り立つためにはそれに対する反体制が必要なのだ。コンフォートゾーンを抜け出せみたいな話とも同じようにそれだけで成り立っている世界の中で完全なものは有り得ない、常に海賊のような外部の存在が新しい見地を与えてくれる。

一種の考えや組織が全体を所有するのは良くないこと。

結局、国家 vs 海賊という構図は「所有権」の争いで、その所有する対象(海であったり、領土、もの、情報空間、権力)が時代とともに変わっていくだけということだ。

 

書評

全体的な感想としては、後一歩、いや後二歩踏み込んだ内容を書いて欲しかった。本書のいうところ、結論は「資本主義において”海賊”という存在は必要悪だ」である。ただ、その論考を述べるのに各章ごとに同じことを言ってる場合も多々あったり、表層的なデータや表現に留まっていた点などが残念だった。嬉しかったのは、キャプテンキッドや黒ひげ、ロジャー、バーソロミュー、サミュエルベラミー、モーガン船長などワンピースおなじみのキャラクター名が出てきたことだ。そして本書でいう海賊とコルセア(襲撃を国に許された国家公認の海賊)の関係性はまさに王下七武海を表しており、現実としてあったんだと実感させられた。

本書に関して翻訳家である山形浩生さんがやはり批判していた。受け取り方は様々なのでもちろん批判も現れることだろうが、”海賊と経済”を題材にした著書を初めて読むのであればいいと思う。

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