前回の記事のおさらい。
本書のエッセンスから意識とはなにか、ロボット研究の意義という項目で紹介した。
少し重複するがロボット研究の意義を要約する。
アンドロイド開発で有名な石黒教授によれば、
『ロボットの研究は究極的に言えば人間理解につながる。また、人間に残されるものは”コミュニケーション”であり、このコミュニケーションの役割を果たすために、人間の肉体が都市に集まっている。だが、コミュニケーションはネット世界へどんどん移行している。この不均衡を解消するため、仮想世界の存在であるものに肉体としてロボットを与え、仮想→物理空間へと結びつけている』とのことだ。
解明されていない人間
・人工知能開発当初は、人間と同じように思考する機械の実現は可能性の問題でなく、「いつできるか」という時間の問題だったが、実際は壁に直面した
・世界とは記号で語りつくせない。もっとも複雑なコンピューターでも、魚や昆虫のような単純な生物の行動さえも再現できないため
・人間は人間を自分たちで作ったわけではないので、完全には理解していない。人間と製品(機械)の関係において人間自体がもっとも解明されていないシステムである。
・我々人間は記号を操作する能力を磨き上げ、類を見ないほど複雑な脳を持った生物へと進化してきたが、実は記号論理を持たずに生活していた時間の方が長い。
意識はない?
人間の触覚を研究することで、意識を知ろうとアプローチしているのが慶應義塾大学の前野教授だ。聴覚や視覚を持たないアメーバのような単細胞生物でも、つつけば反応することから触覚を持っていると言える。人間はこのような単細胞生物から進化した。となると、意識の原型は触覚を通しての世界とのコミュニケーションにあったのではないか、という仮説を立てた。つまり、意識が実は主体ではなく、結果として出力される”受動的な物語”だと提起している。この仮説を「受動意識仮説」と呼び、研究を行っている。
この仮説は強力なものである。
『例えば、指紋の機能。指紋で物を持った時に重い、軽いを判断しとっさに力を入れたりする。こういう時には意識するよりも先に無意識の領域で判断しているのだ。同じように視覚、思考も触覚と同じように処理しているのではないか、と教授は言う。
通常は脳・意識という主体がトップダウンに自らを運営していると思っているが、「受動意識仮説」では無数の小人が同時並行処理によって自らを運営していると考えている。このプロセスの連続、集合体が我々の振る舞いとなって出力されている。つまり、すべての情報を把握し、解釈した上で統合的に行動を決定していくような主体となる意識などなく、その瞬間瞬間で活発になったニューロン=小人が主導権を握って、「わたし」を運営している』とのことだ。
Photo:Smart technologies : New types humanoid robots can feelRecent Inventions
エピソード記憶
「受動意識仮説」で考えていくと、なぜ、意識というアウトプットが必要なのか?と疑問にぶつかる。この答えが「エピソード記憶」にある。
記憶と言語化できない運動のスキルなどの「非宣言的記憶」と本とは何かなど言語化できる「宣言的記憶」がある。さらに「宣言的記憶」は物事の意味を記憶する「意味記憶」、自分の行動や体験を記憶する「エピソード記憶」がある。このエピソード記憶こそがあるから複雑な現実で生きていくことができているわけだ。
また、エピソード記憶によって因果関係のシミュレーション、思考を行うことができる。「受動意識仮説」によれば、このエピソード記憶を実現する機能が「意識」だという。
記憶
「非宣言的記憶」- 言語化できない運動のスキルなどの記憶
「宣言的記憶」- 本とは何かなど言語化できる記憶
ー 物事の意味を記憶する「意味記憶」
ー 自分の行動や体験を記憶する「エピソード記憶」
このようなことから、意識とは主体でなく、身体性から現れる現象だと言えることができる。そうすると、身体性があるからこそ、手で触って質感を感じることができ、視覚でこの世界を見ることでき、記憶によって思考することもでき、その結果、意識で実感しているような感じなのだろう。
また、人間の意識とロボットが持つ(持つことができれば)意識とは異なる意識であることもわかる。人間の持つ視覚はスペクトルの色の一部分に過ぎない。例えば、犬の見るこの世界、トンボの見るこの世界は全く異なる世界として個々の生物には映る。となると、出力としての意識もまた異なるものである。ロボットにしか見えない世界ができた場合、それはロボットにしか持ち得ない”意識”になるのであろう。
『意識と身体があって初めて成り立つ。どちらか一方でもダメで、両者で補完しあってる関係性。つまり、この身体は必要だということ。身体性こそ、人を人たらしめているものなのだ。』
その他 memo
・「ダートマス会議」- アレンニューウェルとハーバートサイモンが数学の定理を証明してみせる初の人工知能「ロジック・セオリスト」を発表した会議
・技術がユニークな解を生み出すヒントは、生命にある。生命は、その45億年の進化と適応の情報を持っている。生命の持つアルゴリズムを技術が構築していけば、人間にとってもっとも安全で、もっと強調できるシステムを作ることができる
・キュービックニューラルネットワークとは、階層的な抽象次元を自由に行き来して情報を扱う技術
Be First to Comment